終戦を迎えて

終戦を迎えても試練は続きます。漢奸裁判が始まったのです。

漢奸とは、中国人でありながら対日協力、対日通謀、本国反
抗のような反逆罪を犯した売国奴のことです。

李香蘭は中国人として生活してきました。李香蘭の罪状は中
国人でありながら中国を冒涜する映画に出演し日本の大陸政
策に協力して中国を裏切った、というものでした。

逮捕された訳ではありませんが、取調べが続き収容所生活が
始まり、軟禁生活が続きました。

スパイ容疑は殆んどなく、問題は李香蘭の国籍でした。中国
人でないことが証明されれば漢奸ではないことになり、容疑が
はれるのです。

日本人であることを証明しなければなりません。どうすれば証
明できるのか。

李香蘭は山口淑子ですと誰が言っても信用されません。何か
証拠になるものはないか。

そこで考えられたのが戸籍謄本でした。満州や中国に移住し
た日本人は日本国籍を証明するために戸籍謄本を何通か所
持するのが一般的でした。

北京に住む両親のもとには戸籍謄本があるはづです。それさ
え取り寄せることが出来れば状況は好転します。

ではどうすれば北京にいる両親から手に入れることが出来る
でしょうか。

このころ幼馴染のロシア人リューバの訪問を受けます。リュー
バは戦勝国側のロシア上海総領事館に勤めといて、山口淑子
のことを心配し時期を選んで会いに来たのです。

タイミング良くリューバの訪問を受けた彼女はリューバに戸籍
謄本の取り寄せの依頼をします。

時間はかかりましたが、両親は誰にも迷惑がかからぬように
彼女が大事にしていた藤娘の人形の帯の中に戸籍謄本を忍
ばせてリューバに渡します。

そしてリューバのおかげで無事に戸籍謄本を手に入れること
が出来ました。

裁判は戸籍謄本のおかげで無罪となり、国外退去となりまし
た。

引き揚げ船に乗る時、警備隊のミスで一度は再度収容所へ
戻るというアクシデントはありましたが、一ヵ月後日本へ向け
て改めて出発することが出来ました。

李香蘭に別れを告げたときでした。

日本で山口淑子としての生活が始まるのです。